大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和36年(ネ)450号 判決

控訴人(申請人) 三重野正明 外八名

被控訴人(申請人) 芳井伸明 外四名

控訴人兼被控訴人(被申請人) 株式会社岩田屋

主文

一、控訴人三重野正明、三重野栄子、井手哲朗と被控訴人株式会社岩田屋間の原判決を取消す。

二、右控訴人三名が右被控訴会社に対し雇用契約上の権利を有する地位を仮りに定める。

三、右当事者間の訴訟費用は第一、二審とも被控訴会社の負担とする。

四、控訴人株式会社岩田屋の控訴、控訴人八柄豊、八柄明美、鍾江ミヨ子、進藤恒雄、松島昭五郎、江島桂子の各控訴を棄却する。

五、控訴人株式会社岩田屋と被控訴人芳井伸明、平田秀則、熊谷高信、牛尾洋一、今泉英昭間の控訴費用は、控訴会社の負担とし、控訴人八柄豊、八柄明美、鍾江ミヨ子、進藤恒雄、松島昭五郎、江島桂子と被控訴株式会社岩田屋間の控訴費用は、右控訴人ら六名の負担とする。

事実

控訴人三重野正明、三重野栄子、井手哲朗、八柄豊、八柄明美、鍾江ミヨ子、進藤恒雄、松島昭五郎、江島桂子の訴訟代理人は「原判決中控訴人らの敗訴部分を取消す。被控訴会社が控訴人三重野正明、三重野栄子、井手哲朗、に対してなした昭和三三年一〇月四日付解雇の意思表示の効力を停止する。被控訴会社は、控訴人八柄豊に対し金六、九八一円、八柄明美に対し金五、六九四円、鍾江ミヨ子に対し金五、八二四円、進藤恒雄に対し金三、四四五円、松島昭五郎に対し金四、八七五円、江島桂子に対し金三、二五〇円を支払わなければならない。仮処分申請費用は第一、二審とも被控訴会社の負担とする。」との判決を求め、被控訴会社訴訟代理人は「控訴棄却、控訴費用は控訴人らの負担とする。」との判決を求め、控訴人株式会社岩田屋訴訟代理人は「原判決中控訴会社の敗訴部分を取消す。被控訴人芳井伸明、平田秀則、熊谷高信、牛尾洋一、今泉英昭の仮処分申請を却下する。仮処分申請費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、右被控訴人ら訴訟代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

事実及び証拠の関係〈省略〉

理由

一、当裁判所の審理の結果疎明された事実及び就業規則の適用並びに仮処分の必要性の存否は、以下に訂正付加する以外は、結局原判決の理由と同一であるから、ここに原判決の理由を引用する。一審申請人ら援用の人証は、ますますこの疎明を強めるものである。そして、この疎明にうち勝つ反対疎明はない。

二、原判決一五八頁四行目の「昭和三五年五月五日」を「昭和三三年五月五日」に訂正し、一六〇頁六、七行の「正当とすべきである。」のつぎに「一審被申請人は、本件は争議目的が違法である旨縷々陳述するけれども(ことに当審第三回準備書面参照)、目的自体が平和義務に違反するとか、全岩労の組織防衛のためのものであつて違法であるという疎明はない。」を加え、一六六頁九行目の「藤井忠蔵」を「藤田忠蔵」に、一七三頁七、八行目の「入店を諦める客が多かつたが、」を「入店を諦める客も相当あつたが、」に、一七六頁一行目の「北側に」を「北側口と」に、同頁九行目の「この口附近に」を「この入口附近に」に、一八〇頁八行目の「設得班」を「説得班」に、一八三頁一二行目の「関谷敏正」を「関家敏正」に、同一四行目の「矢部健造」を「矢野健造」に、「佐藤辰夫」を「佐藤辰雄」に、一八四頁一〇行目、二一一頁七行目、二一三頁七行目及び八行目、二一六頁一〇行目、二一七頁一行目に各「道路」とあるのをいずれも「通路」に、一九一頁五行目の「河辺為治朗」を「河辺為次朗」に、七行目の「鹿島ふじ子」を「鷹島ふじ子」に、一九三頁三行目の「みれた。」を「みられた。」に、一九六頁七行目の「内側へ湾曲した形のピケ一日中はられた。」を「内側へ湾曲した形のピケが一日中はられた。」に、一九八頁四行目の「鶴辰雄」を「鶴辰生」に、四行目から五行目にまたがり「矢野健三」とあるのを「矢野健造」に、二〇一頁三行目の「下げてたり」を「下げたり」に、二〇二頁二行目及び二〇五頁一二行目に各「執擁」とあるのを各「執拗」に、二〇三頁一二行目の「井上茂正」を「井形茂正」に、二〇七頁八行目の「手島光雄」を「牛島光雄」に、同九行目の「田島俊男」を「田島俊郎」に、同一二行目の「鹿島ふじ子」を「鷹島ふじ子」に、二〇八頁一〇行目の「買いた」を「書いた」に、二一一頁一二行目及び二一三頁一行目に各「引掲げ」とあるのを各「引揚げ」に、二一四頁一〇行目の「藤井忠蔵」を「藤田忠蔵」に、同一二行目の「白水欽次」を「白水欽治」に、同一三行目の「住山弥一郎」を「住山弥太郎」に、「横井信義」を「横尾信義」に、二一七頁八行目の「野口寅太郎」を「野田寅太郎」に、二二三頁一一行目及び一二行目に「七月四日」とあるのを、いずれも「八月四日」に、二二四頁三行目の「領収書要件事件」を「領収書要求事件」に、二二六頁四行目の「特商売場」を「特招売場」に各訂正し、一八三頁五行目に「前掲乙第一四号証の四」とあり、二三〇頁二、三行目に「今日はスト中だから買物はできませんよ、他店で買物して下さい。」とあるのを削り、二三二頁四行目の「ピケツテイング(第三(1)IのVI)」を「ピケツテイング(第三(1)のI)」に、二三四頁二行目の「顧客の権利」を「顧客の自由」に各訂正し、二四四頁の末行から二四五頁一行目にかけて、「これら違法行為を阻止した形跡は認められないから斗争委員はこれを容認していたものと推認せざるを得ない。」を「これら違法行為を阻止した形跡は認められない。」に改め、二四八頁の一行目から三行目までを「上記の各認定事実を総合すれば、一審申請人三重野正明は、後記の他の斗争委員らとともにその参与の下に、自からは斗争委員長として、前記違法争議行為の企画、指導、統轄にあたつていたと推認される。」に改め、二四八頁一二行目の「またこのような事態に至れば」から二四九頁一行目の「考えられるから、」までを「またこのような事態にいたれば、あるいは入口附近のピケ隊員が委員長である三重野正明を声援するために、店内になだれ込むような事態に立ちいたらないともかぎらないということは、相当の注意をすれば通常人として予測し得ないことでもないと考えられるから、」に、二五〇頁一〇行目から一一行目にかけて及び二五三頁三行目、二五六頁三行目に各「加藤静江」とあるのを各「加島静江」に、二五一頁一、二行目の「三重野正明同様、本件争議行為の中心となつて、」を「三重野正明を斗争委員長として、後記の他の斗争委員らとともに、」に、二五二頁の一行目から二行目の「本件争議遂行の中心となり、」までを「以上の事実を総合すると、一審申請人三重野栄子は、三重野正明、井手哲朗及び後記の斗争委員らとともに、」に、二五八頁六行目の「前記(第三(4)III)」を「前記(第三(4)II)」に各改め、二五一頁七行目冒頭の「申請人三重野栄子」の上に「(1)」を加える。

三、ピケツテイングについての付加。

ピケツテイングはストライキと表裏一体をなし、ストライキを実効あらしめるためのものである以上、争議組合員及び支援労組が、たんに団結力を示威すること自体は、そのため顧客がこれによつて心理的威圧を受け、入店購買することを諦めたとしても、なんら違法というべきではない。原判決説示のいわゆる平和的説得によつて、顧客が入店しないことは、正当なピケツテイングのもたらす当然の結果である。争議行為の第三者たる顧客は、争議権の正当な行使としてのピケツテイングを尊重することを要請される。心ある良識人は、特段の事情のないかぎり、わざわざピケツトラインを通過してまで入店し購買することはない。この意味において、顧客は正当なピケツテイングの反射的結果として、多少とも不利益ないし不便を忍容することを余儀なくされる。この不便不利益のために、顧客がその忿懣をピケツトラインを守る労組員らに投げかけ、ために労組員との間に紛議混雑を生じたとしても、争議行為を違法と評価すべきではない。このことは一審申請人らの責任を判断するについて顧慮する必要のあるところである。

四、争議労組幹部の責任についての付加訂正

労組員のなした違法行為について責任を負う者は、その労組員の属する労働組合自身である(労働組合が法人であると権利能力のない社団であるとを問わない。)。闘争委員長、闘争副委員長、闘争事務局長、闘争委員などの争議団幹部は、一般の争議労組員との関係において、民法第七一五条の使用者ではなく、同条第二項の使用者に代わる監督者でもなく、その類推適用をする実質的理由もないから、一審申請人らがたまたま闘争委員長、闘争副委員長、闘争事務局長、闘争委員の地位についたからといつて、それらの地位にあるが故に労組員がなした争議中の違法行為について直ちに責任を負うべき理由はなく、労組員のなした争議中の違法行為を阻止し得たのにこれを阻止しなかつたという事実が、その他の事実と相まつて、右違法行為が前示組合幹部たる一審申請人らの指導ないし企画の下に生じたと認められる場合において、はじめて右申請人らの責任を肯定すべく、しかしてこの場合は同申請人らが共同し、あるいは他の労組員らと共同して違法行為(共同不法行為)をなした場合と異なり(共同不法行為の場合においても責任の量定をなす必要がある)、同申請人らの責任の高低を量定するについて斟酌する必要度が高いといわなければならない。

五、就業規則の適用についての訂正付加。

一審申請人三重野正明の前示(一)の(1)ないし(3)の行為、三重野栄子の前示(三)の(1)及び(2)の行為、井手哲朗の前示(二)の(1)の行為は、就業規則(成立に争いのない疎乙第一〇号証参照なお疎乙第一〇号証は一審申請人芳井、平田、熊谷、牛尾、今泉についても疎明となる。)第八二条九号、第八一条六号、一二号に各該当するところ、前認定説示の諸般の情状を考慮すると、懲戒解雇する程の責任があるとは認められないのに、一審被申請人が刑罰でいえば死刑にも等しい、最も重い懲戒たる懲戒解雇に処したのは、結局就業規則の適用を誤つた違法があるので、同解雇は無効といわなければならない。そして右三名については、原判決第七の二に記載の者らと同様に仮処分の必要性があることは、原判決が右の者らについて説示するのと同様であるから、この点につき原判決の記載を引用する。

六、以上見たとおり、一審申請人三重野正明、三重野栄子、井手哲朗にかかる原判決は不当で、同人らの控訴は理由があるので、民訴第三八六条により右三名と一審被申請人間の原判決を取消し、右三名につき主文第二項のとおり仮りの地位を定め、一審被申請人の控訴及び一審申請人八柄豊、八柄明美、鍾江ミヨ子、進藤恒雄、松島昭五郎、江島桂子の各控訴はいずれも理由がないので、民訴第三八四条により右各控訴を棄却し、訴訟費用の負担について民訴第九六条第九五条第八九条第九三条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 池畑祐治 秦亘 佐藤秀)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例